「これも…捨てよう。」
リフォーム後の部屋、一脚の椅子を前にご主人はそう決断した。
ご主人様お気に入りの椅子は籐で作られたゆったりサイズの回転椅子だった。
リフォームするにあたって、古い家具の処分を考えることになった。
塗装面に年月の表れたその椅子も、「古い家具」の一つだ。
「立派な椅子ですよね。背もたれもゆったりしてて…なんだか、もったいないですね。」
「うん…。でも、きれいになる部屋に古ぼけた椅子は…ね。」
そう言いながらも、ご主人はどことなくさびしそうだった。
担当者もさびしい気持ちになってしまった。
「その椅子、まだまだ現役でいけますよ!」
しんみりしているご主人と担当の間に入ってきたのは、リフォーム工事をしている一人の職人。思いがけない言葉に、二人はきょとんとした。
「ちょっと見せてくださいね…。うん!化粧をしなおしてあげればきれいになります。」
しっかりと作りこまれた籐家具は、手を入れてやれば何世代にも渡って使用できるといわれている。
ご主人の椅子も再塗装することで新品同様になるという。
部屋同様、家具もリフォームしようという提案だった。
「預からせてもらっていいですかね。任せてください。」
このまま処分寸前だった椅子だ。ここはひとつ職人の言葉にのってみることにした。
職人はその椅子を自分のトラックにのせ、自宅に持ち帰っていった。
数日後、再塗装された椅子が帰ってきた。
「化粧直し」された椅子は、リフォーム後の部屋にもよく似合った。
「きれいになっても、座り心地は変わってない。いいね、馴染んだ家具ならではだ。」
新品の家具では得られない喜びがそこにあった。
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